「親から相続した畑に家を建てたい」「安く売りに出ている田んぼを買って、マイホームを建てたい」。こうしたご相談はとても多いのですが、田んぼや畑には、許可を受けずに家を建てることはできません。家を建てる前に、農地法の「農地転用」の許可(市街化区域なら届出)が必要です。
この記事では、農地に住宅を建てる場合を例に、まず動画で全体をつかんだうえで、①誰が建てるかで4条か5条か、②土地の区分で決まる許可の見込み、③資金と計画の確実性という3つのポイントを、公的な資料をもとに整理します。
まずは動画で全体を確認
農地に家を建てるときに必要な許可の種類、許可が下りるかどうかの基準、申請の流れと無許可の罰則までを、キャンピングカー行政書士が動画で解説しています。
▲ YouTubeで見る:https://youtu.be/7kbmCs55D6Y
そもそも「農地」かどうかは、今の土地の状態で決まる
農地法でいう農地は「耕作の目的に供される土地」です。農地かどうかは、登記簿の地目ではなく、今の土地の状態(現況)で判断されます。
- 登記簿の地目が「宅地」や「雑種地」でも、実際に田や畑として耕作していれば、農地として農地法の手続きが必要になります。
- 反対に、登記簿は「田」「畑」のままでも、長年農地以外に使われてきた土地は、農業委員会の「非農地証明」の対象になる場合があります。ただし、無断転用(違反転用)によって農地でなくなった土地は、証明の対象外とする農業委員会が多いです。
- 住宅の敷地と一体で使われている庭先の小さな家庭菜園は、一般に宅地の一部として扱われることが多いですが、広さや使い方によっては農地と判断されることもあります。
土地を買う前に、登記簿だけでなく、現地の状態も確認しておきましょう。
ポイント①:誰が建てるかで「4条」か「5条」か
必要な許可は、土地の持ち主と家を建てる人が同じかどうかで変わります。
| ケース | 必要な手続き | 申請する人 |
|---|---|---|
| 自分の畑に、自分の家を建てる | 農地法第4条の許可 | 土地の持ち主(本人) |
| 田んぼや畑を買って家を建てる | 農地法第5条の許可 | 売主と買主 |
| 田んぼや畑を借りて家を建てる | 農地法第5条の許可 | 貸主と借主 |
| 親の畑に、子どもが家を建てる(贈与を受ける、無償で借りるなど) | 農地法第5条の許可 | 親と子 |
| 相続した畑に、相続人が自分の家を建てる | 農地法第4条の許可(相続の届出も必要) | 相続人(本人) |
5条の許可は、土地の権利を渡す人と受ける人が、連名で申請します。親子の間で土地を無償で貸す「使用貸借」も権利の設定にあたるため、5条の対象です。親子だからといって例外にはなりません。
相続した農地は、農業委員会へ「農地法第3条の3の届出」をします。法律上は「遅滞なく」とされ、多くの農業委員会は、相続で取得したことを知った日からおおむね10か月以内を目安として案内しています(届出をしないと10万円以下の過料の対象)。相続人の名義になったうえで、その人が自分の家を建てるなら4条の許可です。
申請書の提出先は、土地のある市町村の農業委員会です。許可をするのは都道府県知事です。ただし、農林水産大臣が指定した市町村(指定市町村)や、都道府県から権限の移譲を受けた市町村では、市町村長などが許可をします。なお、市街化区域にある農地なら、許可ではなく農業委員会への事前の届出で足ります。届出の場合も、受理通知書を受け取ってから工事に入ります。
安い田んぼを買う契約は「許可が下りること」を前提に
5条の許可を受けずにした売買や貸し借りは、効力が生じません。契約を先に結ぶ場合は、許可が下りなかったときに契約を解除できるようにし、手付金や残代金を支払う時期も許可に合わせて決めておきましょう。
ポイント②:土地の区分で許可の見込みが決まる(立地基準)
許可が下りるかどうかは、まず「その農地がどこにあるか」で大きく決まります。これを立地基準といいます。
| 農地の区分 | どんな農地か | 許可の方針 |
|---|---|---|
| 農用地区域内農地(青地) | 市町村の農業振興地域整備計画で、農用地区域とされた農地 | 原則不許可(先に農振除外が必要) |
| 甲種農地 | 市街化調整区域内の、特に良好な営農条件を備えた農地 | 原則不許可 |
| 第1種農地 | 10ヘクタール以上のまとまった農地、土地改良事業の対象となった農地など | 原則不許可 |
| 第2種農地 | 市街地化が見込まれる区域の農地や、小さく点在する生産性の低い農地 | 周辺のほかの土地では目的を達成できない場合などに許可 |
| 第3種農地 | 駅の近くや市街地の中など、都市的な整備がされた区域の農地 | 原則許可 |
住宅については、甲種農地や第1種農地でも、集落に接続して建てる住宅など、周辺に住む人の生活に必要な建物として、例外的に許可される場合があります。ただし、甲種・第1種農地以外の周辺の土地(第2種・第3種農地や農地以外の土地)では目的を達成できない場合に限られ、甲種農地では敷地がおおむね500平方メートル以下という条件もあります。個人の住宅がこの例外にあたるかどうかは、農業委員会での確認が必要です。値段の安さだけで土地を選ぶと、許可の見込みがない農地だった、ということが起こります。
青地の場合は、転用の前に、市町村の農業振興地域整備計画を変更する「農振除外」が必要です。受付の時期が限られている市町村が多く、市町村によって異なりますが、除外だけで半年から1年以上かかることもあります。
自分の土地がどの区分にあたるかは、農業委員会で確認するのが確実です。
ポイント③:資金と計画の確実性(一般基準)
場所の条件を満たしていても、「本当に計画どおりに家が建つのか」が審査されます。これを一般基準といいます。住宅の場合は、主に次の点を確認されます。
- 資金があるか:土地代や建築費を払えることを、預金の残高証明書や金融機関の融資証明書などで示します。
- 敷地が広すぎないか:住宅の敷地として適正な広さかどうか。たとえば三重県は、一般住宅は原則として500平方メートル以内と案内しています。
- 周りの農地に影響を与えないか:雨水や土砂が周りの田畑に流れ込まないよう、排水や土留めの計画が必要です。
- 関係者の同意:その農地を借りて耕作している人など、転用の妨げとなる権利を持つ人の同意が必要です。抵当権が付いている場合も、金融機関との調整が必要になることがあります。
- ほかの法令の許可の見込み:都市計画法の許可などが必要な場合は、その見込みがあること(次の章で説明します)。
- 地域計画との関係:市町村が定めた「地域計画」の区域内の農地は、計画の達成に支障を及ぼすおそれがある場合、許可されません。区域内の農地を転用するには、申請の前に、市町村による地域計画の変更(区域からの除外)が必要になります。
「とりあえず農地転用だけしておいて、家はいつか建てる」「造成だけしておきたい」という計画は、原則として許可されません。建てる時期と建物の計画が決まってから申請します。
市街化調整区域では「そもそも家を建てられるか」も確認
市街化調整区域は、都市計画法で建物の建築が制限されている区域です。農地転用の許可とは別に、都市計画法の開発許可や建築許可が必要になることが多く、建てられる人や建物が限られる場合があります。一定の条件を満たす人に限って認められる住宅(いわゆる分家住宅など)もあります。
農地転用の許可には「ほかの法令の許可の見込みがあること」も必要なため、都市計画法の手続きは農地転用と並行して進めます。建てられるかどうかは、新築か建替えか、敷地を分けるかどうかなどでも変わるため、土地を買う前に、市町村の開発許可の窓口にも相談しておくと安心です。
申請の流れと期間の目安
- 農業委員会への事前相談:農地の区分、4条か5条か、ほかに必要な手続き(農振除外、都市計画法の許可など)を確認します。
- 書類の準備:申請書に、登記事項証明書、公図の写し、位置図、建物の配置図などの土地利用計画図、資金を証明する書類(残高証明書・融資証明書など)、事業計画書などを添えます。必要な書類は農業委員会によって異なります。
- 申請:多くの農業委員会は毎月の締切日を決めていて、締切までに受け付けた申請を、翌月の総会などで審議します。
- 許可:申請から許可まで、1〜2か月ほどが目安です(面積が大きく農業会議の意見を聴く案件などは、さらにかかります)。市街化区域の届出なら、数日から2週間程度で受理通知書が出るのが一般的です(自治体によって異なります)。
- 工事・登記:許可を受けてから工事に入ります。家が建ったら、登記簿の地目を「宅地」に変える地目変更登記をします(土地家屋調査士の業務です)。
許可を取らずに建てるとどうなるか
- 工事の中止や、元の農地に戻すこと(原状回復)を命じられることがあります(農地法第51条)。命令に従わない場合は、行政が代わりに原状回復を行い、その費用を請求されることもあります。
- 罰則は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金。法人の場合は1億円以下の罰金です(農地法第64条・第67条)。
家を建ててから元に戻すことになれば、建物も費用も失います。工事を頼む側も請け負う側も、着工前に許可書(届出の場合は受理通知書)を確認しておきましょう。
土地を買う前・工事を頼む前のチェックリスト
- 登記簿の地目と、今の土地の状態(耕作しているか)
- 市街化区域か、市街化調整区域か
- 青地(農用地区域)かどうか、農地の区分は何か
- 土地の持ち主と家を建てる人は同じか(4条か5条か)
- 建築資金の目処と、敷地の広さ
- 都市計画法上、その場所に家を建てられるか
- 売買契約に、許可が下りなかったときの扱いを入れているか
よくあるご質問
登記簿の地目が「宅地」なら、許可はいりませんか?
今も田や畑として耕作しているなら、地目が宅地でも農地として扱われます。地目だけで判断せず、農業委員会に確認してください。
親の畑に家を建てます。親子なので許可はいりませんか?
市街化調整区域などの農地なら、親子でも5条の許可が必要です。子どもが土地の贈与を受ける場合も、無償で借りる場合も同じです。市街化区域の農地なら、5条の届出で足ります。
相続した畑に家を建てたいときは、何から始めればいいですか?
まず相続登記(令和6年4月から義務化)と、農業委員会への農地法第3条の3の届出を済ませます。そのうえで、自分の名義の農地に自分の家を建てるなら4条の許可(市街化区域なら届出)です。相続人が複数いて遺産分割が終わっていない場合は、先に誰が相続するかを決める必要があります。
青地の田んぼには、絶対に家を建てられませんか?
農振除外が認められれば、転用の許可を申請できる可能性はあります。ただし、ほかに代わりの土地がないことなど、農業振興地域の制度上の要件をすべて満たす必要があり、時間もかかります。まずは市町村の担当課に相談してください。
許可が下りる前に、売買契約を結んでも大丈夫ですか?
契約を結ぶこと自体はできますが、許可を受けるまでは所有権は移りません。許可が下りなかった場合の解除や、手付金の扱いを契約書で決めておきましょう。なお、許可が下りる前に土地を引き渡したり、工事を始めたりすると、違反転用として罰則の対象になることがあります。仮登記にも注意点があるため、司法書士や農業委員会に相談してください。
農地に家を建てたいと思ったら
農地に家を建てられるかどうかは、土地の区分、都市計画法の制限、資金計画の組み合わせで決まります。建設業許認可・農地転用サポートセンターでは、土地を買う前の見通しの確認から、農業委員会への事前相談、申請書類の作成まで対応しています。農地転用のご相談フォームから、土地の所在地と計画をお知らせください。地番や区域がわからなくても、こちらで調べます。
農地転用の制度全体は農地転用の許可・届出の種類とは?で、地域ごとの運用は川口市・越谷市・三郷市・八潮市・草加市の記事で解説しています。
参考(公的情報)
- 農林水産省「「農地法の運用について」の制定について(抜粋)」(令和7年3月31日最終改正)
- 農林水産省「農地法関係事務に係る処理基準について」(令和7年3月31日最終改正)
- 埼玉県「農地転用許可制度について」
- 長野県「農地等の転用(4条・5条許可)」
- 三重県「農地法について」
- 大分市農業委員会「令和7年度 農業委員会のしおり」
- 千葉県「農地違反転用対策について」(令和7年8月)
- 香川県「『地域計画』の策定に伴い 農振除外や農地転用の手続きが変わります!」
- 千葉市「相続等で農地の権利を取得したときの届出(農地法第3条の3)」
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
- 相模原市「市街化調整区域には、どのような建築物が建てられますか」

